EDとは?

EDとは?

EDは勃起不全を意味するErectile Dysfunctionの略称です。
男性に起こる性機能障害の一種で、完全に勃起しない、勃起するまでに時間がかかる、硬度が足りず挿入できない、中折れしてしまうなどの理由から、満足な性行為ができなくなってしまった状態を指します。
患者数は増加傾向にあり、日本臨床内科医会によれば「国内のED患者数は推計1,130万人、40歳以上の男性の3人に1人が該当するといわれています」とのことです。

勃起の仕組み

正常な勃起が難しくなってしまうEDですが、そもそも勃起とはどのような仕組みで成り立っているのでしょうか?
勃起するまでのプロセスを簡単にまとめると、およそ以下のようになります。

  1. ①身体への直接的な刺激や視覚情報、頭の中で思い描いた想像などにより、性的な興奮を感じる
  2. ②感じた興奮が電気信号に変換され、神経を通じて脳へと伝達される
  3. ③脳が体内へ一酸化窒素を放出するよう指令を下す
  4. ④一酸化窒素の働きで陰茎海綿体付近の平滑筋が弛緩し、血管が拡張される
  5. ⑤陰茎へ多量の血液が流れ込み、硬く肥大化する

医学的な観点で紐解いていくと更に複雑な解説が必要ですが、ここではひとまず、勃起するには脳、神経、海綿体、血管が正常に働くことが重要である、という部分を覚えておいていただければ問題ありません。
何らかの原因でこれらの活動が妨げられたとき、勃起機能に異常が生じるEDへと繋がるのです。

参考:一般社団法人日本臨床内科医会「わかりやすい病気のはなしシリーズ23 ED(勃起障害)Q&A

EDの原因

次に、EDを引き起こす原因について見ていきましょう。
一般的なEDの原因は、大きく分けて4種類あるとされています。

心因性ED

仕事や日常生活の中で少しずつ積み重なったストレスによって心が疲れてしまっていたり、性行為中に過去のトラウマがフラッシュバックしたり、といった精神的な理由から勃起できなくなるタイプです。
比較的若い世代の男性に多く、改善には主にカウンセリングなどの心理療法が用いられます。

器質性ED

加齢や病気、乱れた生活習慣、事故による怪我などにより、神経や血管が物理的な損傷を受けることで勃起機能が弱まってしまうタイプです。
身体的な衰えが気になりだす中高年層に多く、外科手術やED治療薬の服用、生活習慣の改善などが推奨されます。

薬剤性ED

血管や神経系に働きかける医薬品を常用している場合に、その医薬品の作用もしくは副作用の影響で勃起しにくくなってしまうタイプです。
抗うつ薬、睡眠薬、降圧薬などは特にEDを引き起こす可能性があるとされています
服用をやめればEDも治ることがほとんどなので、かかりつけの医師へ相談しましょう。

混合性ED

上記3種類のうち、2つ以上の原因が混ざった複合タイプです。
原因の特定が最も困難とされており、改善までのプロセスも患者ごとに異なる複雑なものになります。
早期発見と根気強く治療に向き合う精神力が必要です。

糖尿病とEDの関連性(糖尿病性ED)

EDの概要が分かったところで、いよいよ糖尿病との関連性について考えていきましょう。
おさらいとなりますが、慢性的な高血糖の状態が改善できず糖尿病を発症すると、動脈硬化が始まって血管が硬く、狭くなり、その中を流れる血液は糖度が増すことでドロドロになり、総じて血流が悪くなっていまいます。
しかし、どんな状態であれ、生命活動を維持するためには血流を停止させるわけにいきませんので、心臓が自らの多大な負担を顧みず力尽くで血液を押し流そうと圧力をかけるのです。
そうすると、血圧の上昇、血管や神経の損傷などが発生し、身体に様々な悪影響を及ぼします。
糖尿病が原因で発症するED(糖尿病性ED)もそのうちの1つです。

動脈硬化による糖尿病性ED

伸縮性が低く、通路も狭まってしまった血管の中を、ドロドロの血液が無理やり通り抜けようと足掻くことで、血管は常にダメージを受け続けます。
また、しっかり流れなかった血液が徐々に滞留し、後続の血液の流れを阻む血栓となる可能性も高いです。
その結果、更に血流が悪化して身体の各器官へ必要量の血液が届かなくなります。

先述したように、勃起するには多量の血液が必要です。
しかし、血管が正常に機能しなくなると、心臓から離れた位置にある陰茎まで血液が供給されなくなるため、興奮の度合いに関係なく男性器が反応しないという事態が発生するのです。
特に、陰茎付近の血管は他の血管に比べると細く繊細なので、動脈硬化の影響を受けやすいとされています。

神経障害による糖尿病性ED

人間の体内には血管と抹消神経が張り巡らされており、これらは密接に関係し合っています。
抹消神経には、大きく分けると感覚神経、運動神経、自律神経の3種類があり、このうち血管と最も深く関わっているのは自律神経です。
自律神経は心臓の働きや血圧を調整する役割を担っており、物理的にも血管と密接しているため、血管が損傷した際に巻き込まれるようにダメージを負ってしまう場合があります。

神経がダメージを負って正常に機能しなくなると、身体の内外から受けた刺激に対する感覚や感情を伝達する働きも、自らの意思で身体を動かそうと発する命令も、自分の意識の外で行われていた生命維持のための活動も、全てのパフォーマンスが著しく低下します。
糖尿病患者がうつ病を併発したり、手足が痺れるようになったり、身体が思うように動かせなくなったりするのは、この神経障害が原因なのです。
EDに関して言えば、性的な興奮が脳へと伝わらなくなってしまうことから正常な勃起が難しくなってしまいます。

糖尿病性EDの分類

EDを単独で発症した場合の原因と絡めて考えてみると、糖尿病によるEDは身体機能に異常(動脈硬化)が生じて勃起できなくなる器質性EDにも、精神的な問題(神経障害)で勃起が難しくなる心因性EDにも当てはまります。
つまり、糖尿病が原因で発症したEDの多くは混合性EDに分類されるのです。

糖尿病は40代に差し掛かった辺りから発症する割合が一段と高くなる傾向にありますが、これはEDにも同じことが言えます。
加齢によって身体機能が衰えると、併せて生殖機能も弱まっていくので、少しずつ着実に勃起しにくい身体になってしまうという方が多いようです。
中高年層に該当する男性の場合、EDを発症しても、その原因が単独のものなのか、加齢による衰えなのか、糖尿病の侵攻サインなのか、特定するのは容易なことではありません。
まずは専門医に相談し、ご自分の現状を知って向き合うところから始めましょう。

糖尿病性EDの発症率

糖尿病患者はEDのリスクが高いことが分かりましたが、実際にはどのくらいの違いがあるのでしょうか。
詳しい調査を行った米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)は、以下のように報告しています。

  • 糖尿病患者の場合、同年代の健常な男性に比べ、EDの発症率は2~3倍高くなる
  • 糖尿病患者の場合、同年代の健常な男性に比べ、EDを10~15年早く発症する可能性がある
  • 糖尿病患者の20~75%が、生涯にわたりある程度のEDを経験している
  • 特に45歳以下の男性でEDを発症した場合、糖尿病を早期発見するための指標になる可能性がある

参考:米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)「糖尿病、性的、および膀胱の問題」

糖尿病患者はED患者?

稀に、「糖尿病患者は必ずEDも発症する」と断定的に考えている方がいらっしゃいますが、こちらは大きな誤りです。
上記の調査結果も踏まえ、糖尿病を発症するとEDを発症する可能性が高くなることについては、事実と言っても差し支えないでしょう。
しかし、全ての糖尿病患者が後天的に100%の確率でEDを発症する、といった俗説を裏付ける学術的な研究データはありません。
糖尿病または高血糖と診断された場合でも、医師の指示の下で適切な治療を続けていれば、少なくとも糖尿病の合併症としてEDを発症するリスクは大幅に軽減させることができます。
食事療法や運動療法による健康な身体作りは、EDを含めたその他多くの疾患の予防に繋がるのです。

糖尿病性EDの治療方法

糖尿病(高血糖)は、それ単体では症状を自覚できないケースがほとんどです。
初期の段階だと身体に異常が現れにくいので、医師から「血糖値が高い」と指摘されても「何ともないから大丈夫だろう」と放置してしまう方も少なくありません。
しかし、真に恐ろしいのは糖尿病をきっかけに発症する合併症のほうです。
命にかかわる重篤な疾患を招く恐れもありますので、手遅れにならないよう1日でも早く治療を始めて下さい。

糖尿病の合併症は、基本的には原因である糖尿病と切り分けて治療を行うことになります。
血糖値をコントロールするための食事療法や運動療法、薬物療法を継続しながら、合併症に対する治療も同時進行していく必要があるのです。
糖尿病性EDの場合も同様で、仮に糖尿病だけが完治したとしてもEDの症状は残り続けますし、EDだけを改善できたとしても糖尿病の対策ができていなければ何度でも繰り返し発症することになるでしょう。
健やかな毎日を送るためには、2つの症状を同時にケアすることが肝心です。

EDの治療方法

EDの治療方法にもいくつか種類はありますが、代表的なのはED治療薬を利用した薬物療法です。
バイアグラ、レビトラ、シアリス、ステンドラなどの有名な先発薬やこれらのジェネリック医薬品は、EDに対する有効な改善策として日本のみならず世界中で広く浸透しています。
発症原因が器質性、心因性のどちらであっても十分な作用を発揮してくれることから、糖尿病性EDの治療にも効果的です。

心因性EDの場合には、精神状態を安定させるためのメンタルケアが必要になります。
軽度であればパートナーとのコミュニケーションでも改善が見込めますが、そうでない場合は専門医のいる医療機関でのカウンセリングなども検討して下さい。

ED以外の性機能障害

糖尿病(高血糖)は、それ単体では症状を自覚できないケースがほとんどです。
これまで糖尿病性EDについて解説してきましたが、EDは糖尿病によって引き起こされる性機能障害のうちの1つに過ぎません。
性機能障害には他にも複数の種類があり、中には糖尿病(特に神経障害)と関連して発症する確率が高まるものも存在します。
いくつか見ていきましょう。

逆行性射精

射精する際に精液が膀胱へと逆流する症状です。
正常であれば、射精時には尿道と膀胱を繋ぐ部分が塞がるため、性器の先端から精液が体外へと飛び出します。
しかし、糖尿病を含めた何らかの原因で神経障害を起こしている方は、尿道が完全には塞がらなくなってしまい、精液を押し出す方向が定まらないまま双方に向けて放出されるのです。
吐き出した精液の量が目に見えて減少したり、あるいは全く精液が出なかったりするので、比較的症状の自覚はしやすいでしょう。
興奮や快感などには影響しないものの、長期間に渡って放置すると不妊の原因となってしまう可能性があります。

ペロニー病

陰茎海綿体白膜(陰茎の勃起の維持に関わる組織)にしこりができる疾患です。
発症すると勃起時に陰茎が湾曲し、痛みを感じたり挿入が困難になったりする場合があります。
ペロニー病は後天性の陰茎硬化症であり、正確な発症のメカニズムは解明されていません。
ただし、糖尿病や高血圧、陰茎の外傷などを患っている方は罹患しやすい傾向にあるようです。
治療には、重症度に合わせて内服薬の服用、局所注射、外科手術といった方法が適用されます。

女性の場合

上記は全て男性特有の性機能障害ですが、女性が糖尿病を患った際にも特有の症状が現れるケースがあります。

性機能障害

糖尿病の進行によって神経障害が起こると、身体が受けた直接的な刺激による興奮が脳へと伝わらなくなるため、快感を得づらくなってしまいます。
快感が得られないと女性器は濡れにくくなるので、スムーズな性交は難しくなるでしょう。
また、1度痛みや苦しみを強く認識してしまうと、性交そのものに対する抵抗や嫌悪感が生まれることから、愛するパートナーとの性的な接触を拒むようになってしまう方もいらっしゃるようです。
これは性嫌悪障害と呼ばれる症状であり、改善にはメンタルケアを含めた根気強い治療が必要となります。

糖尿病と更年期障害

女性特有の症状と言えば、更年期障害を思い浮かべる方も多いのはないでしょうか。
こちらは閉経する前後の約10年間の間に起こる身体の不調全般を指すもので、症状の種類や頻度、重症度は人によってバラバラです。
そのため、一概に全ての女性に当てはまるわけではありませんが、更年期障害によって引き起こされる諸症状と糖尿病の初期症状は非常に似ていると言われています。

倦怠感、気持ちの浮き沈み、手足の軽い痺れなどが現れた際、患者が更年期を迎えた女性であれば「年齢のせいだ」と思い込んでしまいがちですが、実はそれが糖尿病のサインだったというケースも以外と多いものです。
糖尿病の場合は血糖値の上昇による血管や神経の損傷、更年期障害の場合はホルモンバランスの乱れが原因であり、適応するべき対処方法もそれぞれ異なりますので、慎重に見極めなければなりません。

不安な方や症状が重い方は、早い段階で医療機関を受診しておくと良いでしょう。