糖尿病と新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の関連性について

2022年7月現在、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)による情勢の混乱は収束の兆しを見せず、病原菌と共に漠然とした不安が世界中で蔓延している昨今です。
日本国内でも日々感染者の確認や重症化の報告が増加しており、第7波となるパンデミックの到来に各首脳陣がその危険性と危機管理の重要性を呼び掛けています。
今回は、感染症であるコロナと生活習慣病である糖尿病(高血糖)の関連性について考えてみたいと思います。

新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)とは?

コロナはSARS-CoV-2という病原体が体内へ侵入することで引き起こされる疾患です。
主な感染経路は以下の2パターンであると考えられています。

  • 感染者の口や鼻から排出されるウイルスを含んだ飛沫またはエアロゾル(空気中に漂う微細な粒子とその周囲の気体の混合体)を吸入する。
  • 感染者の粘膜部分(目、鼻、口など)に接触する。

体内に入り込んだSARS-CoV-2は、健康な細胞内に寄生して増殖し、そのうちの一部が肺や気道を通過して体外へと出て行きます。
外へ出るのは新たな寄生先を探すためです。
肉眼では捉えることのできない約100nm(1mmの1000分の1)サイズの微粒子が空気中にばら撒かれ、接近した人間を見境なく襲います。
また、ウイルスは常に変異を続けており、既存のものとは微妙に性質の異なる変異株が多数確認されているので、例えワクチンを摂取していたとしても油断はできません。
ワクチンによって生成された抗体をすり抜けて攻撃を受ける可能性があるのです。
重症化のリスクを下げる効果は期待できますが、感染するリスクを無くすことはできないため、毎日の感染症対策をしっかりと行うようにしましょう。

糖尿病とコロナ

コロナのワクチン接種を始める際、重症化のリスクの軽減や医療体制の確保を目的に優先順位が制定されました。
大まかに分けると、医療従事者→高齢者→基礎疾患を持つ患者や高齢者等施設の従事者、という順番です。
このうちの基礎疾患とは、簡単に言ってしまえば持病のことで、コロナの重症化リスクを大幅に引き上げる可能性のある病気を指しています。
そして、糖尿病は厚生労働省が指定する基礎疾患に含まれています。

糖尿病は高血糖の状態が続くことで血流が滞り、身体に様々な不調を招く疾患です。
心臓への負担、血管や腎臓の損傷、免疫力の低下など、生命を脅かす危険な症状が徐々に現れるようになります。
糖尿病と診断された時点ですでに身体は傷付き弱ってしまっている状態ですが、そこに感染力の強いコロナが重なると、まともな抵抗ができないままウイルスに蹂躙され、一気に重症化する可能性が高いのです。

参考:厚生労働省「重症化リスクの高い基礎疾患を有する者の範囲について」

糖尿病だからコロナが悪化するのか?

コロナの世界的な流行が始まってから早数年、この未曽有の危機に立ち向かうべく、各国ではコロナに関する多様な研究が進められてきました。
その結果、糖尿病とコロナの関連性については、糖尿病が原因でコロナが重症化しやすくなってしまうケースと、コロナが原因で新たに糖尿病を発症してしまうケースがあることが判明しています。

糖尿病の発症は、何らかの原因でインスリンというホルモンが不足し、健康維持に必要な分の働きが得られなくなることが原因です。
インスリンは代謝によって糖をエネルギーへと変換する他、体内の傷付いた組織の修復を助ける役割も担っているので、日々の健康を維持するためには欠かせません。
一方コロナは、感染により細胞組織の損傷や代謝異常を引き起こすことが知られています。
2022年6月、インスリンやインスリンに似た構造を持つホルモンIGF(インスリン様成長因子)の働きを阻害してしまう可能性とそのメカニズムが、大阪大学の研究によって明らかになりました。

また、ドイツ糖尿病研究センターの研究では、コロナ感染者はⅡ型糖尿病を発症する可能性が高い傾向にあるという結果が示されています。
双方とも代謝や組織細胞に悪影響を与えるという点で共通しているため、どちらか片方を発症していると、もう一方も発症または悪化するリスクが上がってしまうようです。

参考:大阪大学「解明!新型コロナウイルス感染症が引き起こす組織ダメージや代謝異常のメカニズム」

参考:ドイツ糖尿病研究センター(DZD)「COVID-19 INCREASES RISK OF TYPE 2 DIABETES」

コロナの重症化を防ぐには?

コロナの感染を完全に防ぐ手段は、現在のところ発見されていません。
そのため、感染した場合の重症化の予防に力を入れたほうが高い効果を望めるかと思います。

糖尿病を発症している方はコロナに感染した際の重症化リスクが高いと先述しましたが、こちらは全ての糖尿病患者の方に当てはまるわけではありません。
あくまでも糖尿病を発症している方としていない方を比較した場合のお話です。
そして、発症している方のみに焦点を当てた時、その中で更に重症化しやすい方とそうでない方がいることが分かっています。
前者と後者の違いは、治療による血糖値の制御ができているかどうかです。
例え糖尿病を発症していたとしても、普段から適切な治療を行い、血糖が正常な値になるよう管理している方に関しては、コロナ感染時の重症化リスクが健康な方と変わらないという検証結果が出ています。

逆に、治療による制御が成されていない糖尿病(高血糖)をお持ちの方は、そうでない方と比べて約8.6倍も重症化のリスクが高いそうです。

糖尿病の治療は長期戦ですので、コロナに罹ってから慌てて治療を始めても間に合う保証はありません。
明日の自分を助けるために、血糖値の管理は万全にしておきましょう。

参考:EASD(欧州糖尿病学会)学会誌 Diabetologia「large meta-analysis shows people with more advanced diabetes have higher risk of death from SARS-CoV-2」」