糖尿病治療薬の種類

糖尿病の治療薬は、症状に合わせて様々な作用機序を持つ医薬品が用意されています。
代表的なものを見てみましょう。

インスリン製剤

主にⅠ型糖尿病の方が行うインスリン療法で使用される注射薬です。
インスリンの分泌量が大幅に不足するⅠ型糖尿病の場合は、体内でのインスリン分泌を補助する医薬品では十分な効果が得られないため、皮下注射を用いて直接インスリンを補充しなければなりません。

インスリン製剤には、超速効型、速効型、中間型、持効型、混合型、配合溶解製といった複数の種類があります。
注射を打つタイミングや効果の持続時間など細かな違いがあるので、ご自身の症状やライフスタイルに合ったものを使用することが重要です。

近年では、ペンのような形の扱いやすい注射器が開発され、手軽にインスリン療法を続けることができるようになりました。
このタイプの注射器に採用されている針は、採血などで使用するものよりも細く短いため、痛みを感じにくいのも嬉しいポイントです。

DPP-4阻害薬

インクレチンというホルモンを分解する酵素DPP-4の働きを阻害する治療薬です。
インクレチンには、食後などで血糖値が上昇した際にインスリン分泌を促して血糖値を低下させる作用があるため、その分解を抑制することで濃度を高めて血糖値を正常な状態へと近づけます。
他のタイプの糖尿病治療薬と併用する場合は注意が必要ですが、DPP-4阻害薬単体では低血糖を引き起こすリスクが低く、副作用の体重増加も起こりにくいです。

医薬品の例

ジャヌビア、グラクティブ、エクア、ネシーナ、トラゼンタ、テネリア、オングリザなど


GLP-1受容体作動薬

GLP-1はインクレチンに含まれる消化管ホルモンの一種であり、膵臓にあるGLP-1受容体と結合することでインスリンの分泌を促す作用があります。
GLP-1受容体作動薬は、このGLP-1を体外から摂取して作用を高める治療薬です。
元々は注射薬のみが治療薬として使用されていましたが、2021年に内服薬の販売が開始され、そちらも主流となりました。
血糖値が上昇した際に効果を発揮するため、低血糖を起こしにくいと言われています。

医薬品の例

リベルサスなど


スルホニル尿素(SU)薬

経口血糖降下薬の中でも最も長い歴史を持つ治療薬です。
膵臓のβ細胞へ働きかけてインスリンの分泌を促進させる作用があります。
体内でインスリン生成はできるものの、量が不足しているために十分な血糖コントロールが難しいⅡ型糖尿病の症状改善に適任です。
ただし、血糖値を低下させる作用が長時間続くことから低血糖を招くリスクが高く、糖尿病治療の第一選択薬として用いられる機会は少なくなっています。

医薬品の例

アマリール、グリミクロン、オイグルコンなど


速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)

膵臓のβ細胞に働きかけてインスリンの分泌を促します。
スルホニル尿素(SU)薬と似た作用機序を持っていますが、速効型インスリン分泌促進薬は効果の持続時間が短いのが特徴です。
食前に服用しておくことで、食事によって一時的に上昇した血糖値を素早く正常値へと近づけ、その後すぐに効果がなくなります。
低血糖への注意は必要ですが、スルホニル尿素(SU)薬と比べるとそのリスクは低いです。

医薬品の例

シュアポスト、グルファスト、スターシス、ファスティックなど


ビグアナイド薬

人間の肝臓では常に糖が生成(糖新生)されており、それを制御する役割を持つインスリンの働きが十分でない場合に高血糖や糖尿病が引き起こされるケースがあります。
ビグアナイド薬は、糖新生による糖の放出を抑える、腸での糖の吸収を抑える、筋肉などでの糖の取り込みを促すといった作用によって血糖値を低下させることが可能です。
稀に乳酸アシドーシスを発症するケースがあるため注意しましょう。

医薬品の例

メトグルコ、グリコラン、ジベトス、ゾメットなど


チアゾリジン薬

Ⅱ型糖尿病には、健康な人と比べてインスリンの分泌量が少ないケースと、分泌量は足りているもののインスリンに対する体内の感受性が低いために十分な働きが行われないケース(インスリン抵抗性)があります。
チアゾリジン薬は、筋肉や肝臓に作用してインスリン抵抗性を改善することで血糖値の低下を促す治療薬です。
インスリンの分泌には関わらないため、単体では低血糖を引き起こすリスクがほとんどありません。

医薬品の例

アクトスなど


α-グルコシダーゼ阻害薬

食事によって摂取した糖質をブドウ糖へと変える分解酵素α-グルコシダーゼの働きを阻害する治療薬です。
通常、生成された大量のブドウ糖が血液中に溶け出し、消費の速度が追い付かずに蓄積されると高血糖と呼ばれる状態になります。
α-グルコシダーゼ阻害薬を食前に服用しておくと、糖の吸収が遅くなり、食後の血糖値の急激な上昇を抑えることが可能です。
初めて服用した際に、腹部の張りや下痢といったお腹周りの副作用を感じる場合が多いと言われています。

医薬品の例

ベイスン、グルコバイ、セイブルなど


SGLT2阻害薬

血糖(血液中の糖)を尿糖(尿に含まれる糖)として体外へ排出させる治療薬です。
本来糖質は、食事などから摂取→ブドウ糖に分解されて血液中に溶け出す→腎臓の中の毛細血管を通って血液中へ再度取り込まれる、というサイクルで体内を循環します。
SGLT2阻害薬には、ブドウ糖の再取り込みに関わるSGLT2という物質の働きを阻害することで、体内の血糖値を低下させる作用があります。
尿の排泄により体重が減少するため、肥満体型の人の治療に効果的です。

医薬品の例

スーグラ、フォシーガ、デベルザ、カナグル、ジャディアンスなど

糖尿病治療薬一覧

このページで紹介した糖尿病治療薬の特徴を簡単にまとめました。

不足したインスリンを補充する インスリン分泌を促進する インスリン抵抗性を改善する 糖の吸収・消化・排泄を調節する
Ⅰ型調尿病治療薬 インスリン製剤 - - -
Ⅱ型糖尿病治療薬 - DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、
スルホニル尿素(SU)薬、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
ビグアナイド薬、チアゾリジン薬 α-グルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬